映画祭を終えて
「第3回江古田映画祭―3.11福島を忘れない」は3月1日から15日まで武蔵大学とギャラリー古藤において15日間行われ、有料入場者数は552名、初日の無料上映入場者数78名を加えると630名の方に映画を観ていただきました。ありがとうございました。
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映画祭を終えて
おかげさまで600人を超える方にお越しいただき、15日間の映画祭を無事終えることができました。何度も足を運んでくださった方、冷たい雨のなかでも連日即売を続けてくださっ...た方、遠くからお越しいただいた監督さん……、ほんとうにありがとうございました。
今回の江古田映画祭は、福島原発事故の問題を、より広くより深く考える意味から、三里塚・水俣・ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ事件・ロシア・ブラジルやベトナム戦争の被害をテーマにしたドキュメンタリーをラインナップに位置づけました。その結果、地域映画祭としては異例の22作品をご覧いただくことになりました。これも、たくさんの方々のご尽力の賜物です。ほんとうにありがとうございました。
今回の映画祭で特筆すべきは、ギャラリー古藤と武蔵大学が連携を始めたことです。ギャラリーの真向いの1号館のシアター教室では、完成直前の『三里塚に生きる』をプレミア上映。合わせて武蔵大学が所蔵する小川紳介監督『三里塚の夏』を紹介しました。大津幸四郎・代島治彦監督のトークもあいまって、三里塚闘争とは何かが人間の物語が立体的に浮かび上がりました。80歳を超えた大津監督のお話のひとつひとつが胸に響き、三里塚闘争が今もそれぞれのひとの人生に消えることのない刻印を残していることを知りました。
ユンカーマン監督の『映画 日本国憲法』には、慰安婦問題・辺野古の基地問題が取り上げられています。制作から10年、憲法9条が危ない今こそ見られるべき作品です。シロタ・ベアテさんなど今は亡き憲法の生みの親の証言は貴重でした。ジェフリー・ジョーサン監督の『福島の女たち』を含めた連作は、才能を感じました。ジェフリー監督が注目するのは、悲劇に遭遇しても、たくましく生きる人たちの輝き。トークの中で上映した短編『笑う東北』は涙と笑い傑作。見る側も不思議な涙に浄化されました。『フタバから遠く離れて』は、帰宅困難地域が抱える困難さを定点でみつめた作品。記録においても大変重要なものです。続編に意欲を見せる、論客・舩橋淳監督の覚悟を知りました。林勝彦監督の作品は、大学生の感性を感じるものでした。2人の政治家のミニ・ドキュメントは新鮮でした。なかでも凍土壁を提案した馬淵議員の証言などは、ニュースなどには取り上げられない、新鮮なリポートでした。西山正啓監督の連作は、大変力強い作品でした。なかでも、『のさり』は水俣病の語り部・杉本栄子さんの証言が圧倒的な迫力で迫ってきました。土本典昭監督のもとで、水俣を見つめ続けてきた西山監督ならではの蓄積を感じました。水俣における差別や偏見、それに負けずに、豊かな海の「のさり」(豊漁)を夢見る栄子さんの貴重な記録でした。本橋成一監督の『アレクセイと泉』は上映時、大きな話題となりました。チェルノブイリ事故の後でも放射能を検出しない不思議な井戸とともに生きる村人の物語に、生きることの愛おしさを実感しました。鎌仲ひとみ監督の『カノンだより』は、第1作と第2作。チェルノブイリと福島が交錯し、進行形で映画が育ってくことを知りました。伊東英朗監督の『放射線を浴びたX年後』は、ビキニ事件で被災した第五福竜丸以外の船の乗組員のドキュメント。被ばくから60年、埋もれた歴史を掘り起こす執念に感動しました。この作品にも続編が進行していることを、監督のお話から知りました。有原誠治監督の『原爆症認定集団訴訟の記録・おりづる』ほかの連作は、認められない放射能障害の掘り起しをテーマにしていました。残留放射能の問題は、福島原発事故と重なります。外国の2作品の日本語版も最近あいついで完成された有原監督の奮闘に拍手を送ります。『変身』は、アメリカの知られざる原発被害と日本の脱原発のうねりをとりあげていました。NHKの原発報道に異を唱え、NHKアナウンサーから転身をはかった堀潤監督自身の「変身」への願いが、映画のタイトルに込められているのではと、想像しました。今後もジャーナリズムの世界での活躍を期待します。坂田雅子監督の『沈黙の春を生きて』は堂々たるドキュメンタリー。ベトナム戦争の時使われた枯葉剤で夫を亡くした坂田監督の人生をかけた作品です。ロケの現場には、静謐さのなかに、かすかな希望も感じました。長期にわたる猛毒の化学物質の被害は、福島のひとびとが直面する恐怖と共通するものです。坂田監督が今取り組む、マーシャル諸島やセミパラチンスクの映画の近況を伺うことができたこともよかったです。堀切さとみ監督の『原発の町を追われて~避難民双葉町の記録』も、原発事故がひとびとの暮らしをどう変えたのか、低い目線で静かに記録しており、見る人の胸に迫りました。かさこ監督の『シロウオ~原発立地を断念させた町~』は、徳島と和歌山のふたつの町で、原発立地計画を撤回させた原動力について、丁寧に拾い集めた力作です。われわれは未来に向けて何を残せばいいのか、示唆に富んだ作品でした。
(受賞作品)
実行委員による意見交換を持ち、受賞の基準は、近作であること、江古田映画祭の趣旨をもっとも体現し、感動を呼び起こしたものとしました。アンケートやトークイベントの反響なども判断の基準に加えました。
第3回江古田映画祭観客賞 『シロウオ』(2013年)
お客さんへのアンケートのなかで、もっとも多くの支持を集めました。原発を断念させた2つの町の人々が発するメッセージは、わたしたちが未来に向けて、何を大切にすべきかを語っています。先日、練馬区では新潟県の巻町で原発をつくらせなかった実話をもとにした劇映画『渡されたバトン』の上映会を開き、区民1200人が集まりました。『シロウオ』は、ドラマではなく、ドキュメンタリーであり、主な関係者があいついで証言する貴重な作品です。この作品を見た方は、われわれは、どうすればいいかを考える、ヒントをつかまれたのではないでしょうか。上映の後、かさこ監督に加え、矢間プロデューサーのお話が、大迫力でした。そのこともお客さんに強烈な印象を残したのではないかと思いました。
第3回江古田映画祭大賞(グランプリ) 『のさり』(2014年)
水俣病の語り部・杉本栄子さんの日々を追ったドキュメント。栄子さんを追ったテレビのドキュメンタリーは多くありますが、そのなかでも、もっとも栄子さんのひととなりやメッセージが、しっかり伝わる作品でした。西山監督が水俣に関わるようになったのは、ドキュメンタリーの巨匠・土本典昭監督とともに水俣のシリーズを制作していた1970年代からです。長い歳月の蓄積が映画にも生かされています。栄子さんはなくなりましたが、その遺志は、お連れ合いや息子たち、栄子さんとともに歩んだ多くのひとたちに引き継がれていることを知りました。水俣病は人間が引き起こした究極の環境破壊の産物。そこに社会の偏見や差別が加わった、社会的につくられた病でもあります。その深刻さは福島の原発被害とも重なります。われわれはほんとうに水俣から教訓を導き、福島に生かすことができるのでしょうか。強烈な問いとなってわれわれに迫ってきます。アンケートでの支持が2位だったことにも鑑み、最初のグランプリと決定いたします。
(江古田映画祭実行委員会代表 永田浩三)
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映画祭を終えて
おかげさまで600人を超える方にお越しいただき、15日間の映画祭を無事終えることができました。何度も足を運んでくださった方、冷たい雨のなかでも連日即売を続けてくださっ...た方、遠くからお越しいただいた監督さん……、ほんとうにありがとうございました。
今回の江古田映画祭は、福島原発事故の問題を、より広くより深く考える意味から、三里塚・水俣・ヒロシマ・ナガサキ・ビキニ事件・ロシア・ブラジルやベトナム戦争の被害をテーマにしたドキュメンタリーをラインナップに位置づけました。その結果、地域映画祭としては異例の22作品をご覧いただくことになりました。これも、たくさんの方々のご尽力の賜物です。ほんとうにありがとうございました。
今回の映画祭で特筆すべきは、ギャラリー古藤と武蔵大学が連携を始めたことです。ギャラリーの真向いの1号館のシアター教室では、完成直前の『三里塚に生きる』をプレミア上映。合わせて武蔵大学が所蔵する小川紳介監督『三里塚の夏』を紹介しました。大津幸四郎・代島治彦監督のトークもあいまって、三里塚闘争とは何かが人間の物語が立体的に浮かび上がりました。80歳を超えた大津監督のお話のひとつひとつが胸に響き、三里塚闘争が今もそれぞれのひとの人生に消えることのない刻印を残していることを知りました。
ユンカーマン監督の『映画 日本国憲法』には、慰安婦問題・辺野古の基地問題が取り上げられています。制作から10年、憲法9条が危ない今こそ見られるべき作品です。シロタ・ベアテさんなど今は亡き憲法の生みの親の証言は貴重でした。ジェフリー・ジョーサン監督の『福島の女たち』を含めた連作は、才能を感じました。ジェフリー監督が注目するのは、悲劇に遭遇しても、たくましく生きる人たちの輝き。トークの中で上映した短編『笑う東北』は涙と笑い傑作。見る側も不思議な涙に浄化されました。『フタバから遠く離れて』は、帰宅困難地域が抱える困難さを定点でみつめた作品。記録においても大変重要なものです。続編に意欲を見せる、論客・舩橋淳監督の覚悟を知りました。林勝彦監督の作品は、大学生の感性を感じるものでした。2人の政治家のミニ・ドキュメントは新鮮でした。なかでも凍土壁を提案した馬淵議員の証言などは、ニュースなどには取り上げられない、新鮮なリポートでした。西山正啓監督の連作は、大変力強い作品でした。なかでも、『のさり』は水俣病の語り部・杉本栄子さんの証言が圧倒的な迫力で迫ってきました。土本典昭監督のもとで、水俣を見つめ続けてきた西山監督ならではの蓄積を感じました。水俣における差別や偏見、それに負けずに、豊かな海の「のさり」(豊漁)を夢見る栄子さんの貴重な記録でした。本橋成一監督の『アレクセイと泉』は上映時、大きな話題となりました。チェルノブイリ事故の後でも放射能を検出しない不思議な井戸とともに生きる村人の物語に、生きることの愛おしさを実感しました。鎌仲ひとみ監督の『カノンだより』は、第1作と第2作。チェルノブイリと福島が交錯し、進行形で映画が育ってくことを知りました。伊東英朗監督の『放射線を浴びたX年後』は、ビキニ事件で被災した第五福竜丸以外の船の乗組員のドキュメント。被ばくから60年、埋もれた歴史を掘り起こす執念に感動しました。この作品にも続編が進行していることを、監督のお話から知りました。有原誠治監督の『原爆症認定集団訴訟の記録・おりづる』ほかの連作は、認められない放射能障害の掘り起しをテーマにしていました。残留放射能の問題は、福島原発事故と重なります。外国の2作品の日本語版も最近あいついで完成された有原監督の奮闘に拍手を送ります。『変身』は、アメリカの知られざる原発被害と日本の脱原発のうねりをとりあげていました。NHKの原発報道に異を唱え、NHKアナウンサーから転身をはかった堀潤監督自身の「変身」への願いが、映画のタイトルに込められているのではと、想像しました。今後もジャーナリズムの世界での活躍を期待します。坂田雅子監督の『沈黙の春を生きて』は堂々たるドキュメンタリー。ベトナム戦争の時使われた枯葉剤で夫を亡くした坂田監督の人生をかけた作品です。ロケの現場には、静謐さのなかに、かすかな希望も感じました。長期にわたる猛毒の化学物質の被害は、福島のひとびとが直面する恐怖と共通するものです。坂田監督が今取り組む、マーシャル諸島やセミパラチンスクの映画の近況を伺うことができたこともよかったです。堀切さとみ監督の『原発の町を追われて~避難民双葉町の記録』も、原発事故がひとびとの暮らしをどう変えたのか、低い目線で静かに記録しており、見る人の胸に迫りました。かさこ監督の『シロウオ~原発立地を断念させた町~』は、徳島と和歌山のふたつの町で、原発立地計画を撤回させた原動力について、丁寧に拾い集めた力作です。われわれは未来に向けて何を残せばいいのか、示唆に富んだ作品でした。
(受賞作品)
実行委員による意見交換を持ち、受賞の基準は、近作であること、江古田映画祭の趣旨をもっとも体現し、感動を呼び起こしたものとしました。アンケートやトークイベントの反響なども判断の基準に加えました。
第3回江古田映画祭観客賞 『シロウオ』(2013年)
お客さんへのアンケートのなかで、もっとも多くの支持を集めました。原発を断念させた2つの町の人々が発するメッセージは、わたしたちが未来に向けて、何を大切にすべきかを語っています。先日、練馬区では新潟県の巻町で原発をつくらせなかった実話をもとにした劇映画『渡されたバトン』の上映会を開き、区民1200人が集まりました。『シロウオ』は、ドラマではなく、ドキュメンタリーであり、主な関係者があいついで証言する貴重な作品です。この作品を見た方は、われわれは、どうすればいいかを考える、ヒントをつかまれたのではないでしょうか。上映の後、かさこ監督に加え、矢間プロデューサーのお話が、大迫力でした。そのこともお客さんに強烈な印象を残したのではないかと思いました。
第3回江古田映画祭大賞(グランプリ) 『のさり』(2014年)
水俣病の語り部・杉本栄子さんの日々を追ったドキュメント。栄子さんを追ったテレビのドキュメンタリーは多くありますが、そのなかでも、もっとも栄子さんのひととなりやメッセージが、しっかり伝わる作品でした。西山監督が水俣に関わるようになったのは、ドキュメンタリーの巨匠・土本典昭監督とともに水俣のシリーズを制作していた1970年代からです。長い歳月の蓄積が映画にも生かされています。栄子さんはなくなりましたが、その遺志は、お連れ合いや息子たち、栄子さんとともに歩んだ多くのひとたちに引き継がれていることを知りました。水俣病は人間が引き起こした究極の環境破壊の産物。そこに社会の偏見や差別が加わった、社会的につくられた病でもあります。その深刻さは福島の原発被害とも重なります。われわれはほんとうに水俣から教訓を導き、福島に生かすことができるのでしょうか。強烈な問いとなってわれわれに迫ってきます。アンケートでの支持が2位だったことにも鑑み、最初のグランプリと決定いたします。
(江古田映画祭実行委員会代表 永田浩三)
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